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いきなりですが・・・

映画は、沢山観た方が良いですね。

映像の哲学や演出の格調、情報の含有率(非言語主義であるゆえの)は、

あらゆる情報コンテンツで最も臨界点が高いと思うのです。

新作を観るのも良いけど、古い作品も観た方が良い。

芸術は常に懐古しなくちゃ廃れると思うので。



私は、黒澤明が大好きです。

モノクロ時代の黒澤と、カラーになってからの黒澤を明確に分けて批評する人がいるけど、

私は、モノクロ時代=動・エンターテインメント

カラーになってから=静・哲学

と、大まかに捉えています。



モノクロ時代の黒澤ファンには、今ひとつ人気の無い「乱」。

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もう、何十回となく観ました。

DVDを、友人たちに進呈した事もあります(w

物語の下敷きは、シェイクスピアの「リア王」。

カンヌ国際映画祭80年代ベスト1に選ばれた、正真正銘の傑作。



前々から、黒澤の映画(特に時代物)を観ていると、

何故か異様なほどのリアリズムを感じるのです。

時代考証云々というのではなく、まるで、かの時代を目の当たりにしてるような

圧倒的パワーと、凄まじいまでの迫力。



その、リアリズムの源が、↓ここにあると思うのです。

※手元にある「映画批評」に、このような記述がありました。

(黒澤明インタビューより抜粋)

「たとえば、平家物語いう本を読んでおってもわからない。

具象的にはわからない。

ところが、あの時分の鎧なんかを見る。

本当に好きになってみれば、そこからイメージというのが出て来る。

前田青邨さんが持っている鎌倉時代のしゃもじ、

そのしゃもじを見ると、鎌倉という時代はこういうものかというものが出てくる。

そのしゃもじがすごい。

いまのしゃもじはこうでしょう。平べったい。

そうじゃない。

掴むところがこういう具合に三角になっていて、

ここから こういう厚みのあるしゃもじですよ。

それを見ると、そのときの人間の状態がわかる。

それが飯器というこういうもの、こういう足のついている。

それに山の様に盛っためしの上 にそれが垂直に立っている。

それをこう持って、こういう具合にとって、めしをよそう・・・・

そういうものを想像して、そういうものから入っていかなければ、

古い時代のイメージは なかなか出て来ない」







以下、極私的偏愛シーンを。



まず、オープニング。

・猪狩りのシーン。

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眼光鋭い仲代達矢。

馬上から矢を放つ、僅か数秒のシーン。

この為だけに、1年間も仕事をキャンセルして練習したそうです。

(バックに流れる狂ったような笛の音が鮮烈)

「乱」は、マーラー風管弦楽曲が使用されていて、それがまた似合う!







・標高1250メートルの御殿場山中に建設された「三の城」。

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民家200軒分の材木を使い、130日掛けて細部まで入念に造り込まれました。

大手門、搦手門、馬舎、納屋も同様。

私は、CG否定派なので(やっぱり人間の目は誤魔化せない)、

こういう本物感は、観ていて腹の底にグイグイ来るのです。









・三の城攻防シーン。

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スティーブン・スピルバーグは「プライベートライアン」で、

マーティン・スコセッシは「ギャング・オブ・ニューヨーク」で、

ピーター・ジャクソンは「ロード・オブ・ザ・リング」で、

チャン・イーモウは「英雄」で、このシーンにオマージュを捧げています。

「旗指物」(凄い芸術的!)がどんどん増えてきて、

画面を埋め尽くす時の映像のリズムは、圧巻・壮観。









・「楓の方」(かえでのかた)を演じる原田美枝子。

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もう、こういう艶技の出来る女優は、2度と現れないです。(断言)









・陣形シーン。

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武田信玄と、上杉謙信の「川中島の戦い」も、

その殆どが“睨み合い”だけで終ったそうですが、

実戦に及ばずとも、その攻防は細部に至るまで面白い。



戦に於ける陣形というのは、現代の我々から見ると、

戦略的な配置というより、ある種の芸術に思えてしまいます。

無言の攻防という精神的な“やり取り”が、強烈な緊張感を生み出す…

それを、巧みに表した演出の凄さ!(溜息)







・指揮。

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事故を起してから急激に老けたけど、

根津甚八は、ほんまに“男の中の男”を感じさせる役者でした。

このシーンでは、大将として陣頭指揮を執るんですが、

その号令の仕方が、いちいちカッコイイ。

「鉄砲大将!」と、号令する“がなり声”のシビレる事・・・

馬上の勇姿も、実にハマってます。

要・必・見!





この作品は、スケールの大きなセットを借りた「舞台劇」という感じがします。

俳優の肉体と台詞だけで表現される「小宇宙」を技術で味付けし、

「大宇宙」を再現するという神業的センス。

初めて観る人は、前頭葉に強烈な一発を喰らう事でしょう。

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